
「“自給自足”できるまちをつくろう」をコンセプトに、実際に田んぼでお米づくりを続けている不動産屋さんが千葉県松戸市にあります。その名も「omusubi不動産」。2014年の設立ながら、DIY賃貸管理戸数日本一(全宅連調査より)、2020年春には下北沢に開業した商業施設BONUS TRACKに2号店を出店。まちとの繋がりを大切に行動するユニークな不動産屋で働いている日比野亮二さん(写真左)と岩澤哲野さん(右)にお話をお伺いしました。前編に続く後編です。
2020年春に開業したBONUS TRACKにおけるomusubi不動産の役割 つながりを大切に下北沢でも場と機会を提供

2020年春のBONUS TRACK開業に合わせ、2号店を出店されたomusubi不動産。下北沢では、どのようなお仕事をされていらっしゃるのでしょうか。
1つは施設全体の管理をやっています。2つ目は、シェアキッチンと、コワーキングスペースのBONUS TRACK MEMBER’Sの運営。そして、不動産のお店をやっています。どちらかと言えば、現在は施設運営やシェアスペースのコミュニティ作りの稼働が大きいです。不動産事業も、ご相談いただいた際に個別で対応しています。(日比野さん)

下北沢でのコワーキングスペースの運営に気を付けていらっしゃることはあるのでしょうか?
人との距離感や、相手が求めているモノを察する力がすごく求められていて、岩澤くんのように適度な距離をとりながら、うまく引き出すことが大切だと感じています。まさに舞台の演出のお仕事にも似たところもあるんじゃないかなぁ。現在のマネージャーさんも風通しの良さを気にしながら、人と人の距離感を大事にした場作りをしているようです。松戸でも同じような感覚でやっていて、場の運営では大事にしたいと考えています。(日比野さん)

代表の殿塚さんは、社内で「omusubi不動産ができることは、場と機会の提供」と度々話されるそうです。松戸や下北沢でomusubi不動産が運営されているシェアスペースの利用を通して、omusubi不動産流の「場」と「機会」を気軽に体験することができるかもしれません。BONUS TRACK MEMBER’Sでは、毎月1回、「働く」と「暮らす」をテーマにしたトークイベントも開催(メンバー以外も参加可)しています。またコワーキングスペースは、ドロップイン(単日)での利用もできるそうですので、興味のある方は、一度現地に足を運んで体験してみてはいかがでしょうか。
omusubi不動産で働いて良かったことは?


開業から10年を超え、空き家DIY物件などでも実績を積み重ね、地域外の企業との連携なども増えつつあるomusubi不動産。仕事を進める中での困難や課題などもあると思いますが、omusubi不動産で働いて良かったことを聞いてみました。
日比野さんは開口一番に「社会課題とか社会に必要とされていることをやっている感覚があります」と、はにかみます。さらに、これは自分のエゴなのかもしれないですがと、謙遜しつつ
僕がはじめてせんぱく工舎のとりかじ祭りでみた光景、不動産屋がなんでこういうイベント活動をやっているのかっていう光景なんですけど、そのような地域で繋がりをつくる活動、公共性の高い活動が、もっと世の中に広がっていけばいいのに!というような想いを、仕事で試せるというのもomusubi不動産で働いて良かったことの一つです。(日比野さん)
正解や正確性を求められる現代社会において、一人の生活者として「良いなぁ」と実感したことを仕事として広めてゆくことを「試せる」とは、なんとも健康的でクリエイティブな働き方ではないでしょうか。

岩澤さんは、「そもそもお仕事をいただいている時点でめちゃくちゃありがたいん話なんですけど」と、前置きをしつつ
社会人経験もないまま演劇の世界で生きてきて、自分がやっていることにどんな価値があるんだろうか、と20代の終わり頃に自分を疑った瞬間がありました。
今は、自分が演劇でやってきたことを社会に還元することが出来ている。自分のやってきこと、スキルみたいなものを試せる場所があるということ自体が有難いことだなぁと感じています。
ここで仕事をしているからこそ、一方で演劇の仕事も続けていられるというバランスもあります。 こういった仕事のやり方を通じて自分が感じたことを若いアーティストや仲間たちに伝えていけたらいいなぁという点もモチベーションになっています。(岩澤さん)
岩澤さんは、omusubi不動産での仕事量も増えているそうですが、現在も演劇活動を精力的に続けていらっしゃいます。そして、演劇の世界で培ってきたことを、仕事として「試せる」ことにomusubi不動産で働く価値を見出しているようです。

せんぱく工舎やOne Tableでは「これから何かをはじめたい=試したい」というエネルギーを持ったクリエイターや料理人に場と機会を提供し、空き家を通じて、家主にも借主にも新しい場と機会を提供して、さらに「科学と芸術の丘」では、アーティストだけでなく、市民にも多くの場と機会を提供してきたのが、omusubi不動産なんですね。
そこで働く日比野さんや岩澤さんにも同じように仕事という場と機会があり、それぞれ「試す」ことが、担保されている。
自分が生活する町にあってほしい場と機会を、omusubi不動産に関わる人々は、享受しながら、それをまた誰かに繋ぐことで、お互い様の関係性をゆるやかに醸成しているのかもしれません。
持続する場と機会づくりに大切なこと。地域と関わる上で大切にしていることは?

にぎわい創出のためのイベントや地域活性化を目的とした催しは官民問わず日本各地で実施されています。また開催のための費用捻出にクラウドファンディングなどの利用も定着しつつあります。
一方で、一定の成果を得ることに成功しながらも、息切れをして縮小や次回開催未定、「イベント疲れ」という言葉も各地で耳にします。omusubi不動産では、どのようにまちづくりへの取り組みを持続化させるように心を配っているのでしょうか?
演出家の顔で岩澤さんが言います。
場と機会の提供が自分たちの仕事だとした時に、自分たちがプレイヤーになりすぎてはいけないと。演劇における演出家の役割で、フィールド(舞台)には、自分たちはいないんですよね。外から、その場をよく見せるために必要なことをやる。不動産でも、町の中のイベントでも、自分たちがプレイヤー過ぎる弊害を感じているからこそ、そうならないように気を付けています。持続可能なお互い様の関係でいられることが大切だぁなと(岩澤さん)
omusubi不動産の持続性のある取り組みを支える、岩澤さんの演劇的な見方、「運営は主役ではなく演出家のように環境を整える」という視点は、イベントに限らず場の運営に大いに参考になります。場に自発的に参加を希望される方々の気持ちや考え、実行力を引き出すこと。言うのは簡単ですが、これは経験がないとなかなか難しそうです。
江戸時代には、職能や階級を超えた人々が趣味や芸事などを目的にして集い、文化を醸成させた「連(れん)」という場があったそうです。作家、絵師などの職人から落語家や本屋など、多様な町人が集い俳諧をともに読み、狂歌や川柳を作り発表するなど創作を楽しんでいたとか。仕事以外で社会とつながることの生きがいや豊かさを実感していたことでしょう。omusubi不動産が提供する場には、この連にも通じるところを感じます。
人口50万人超の松戸市だからできるのでは?下北沢だから実現できるんでしょ?と勘繰っていた気持ちが恥ずかしくなるようなお二人の実直なお話ぶり。まちづくりに直接的に関わることができる不動産業の事業領域の捉え方、またその取り組む姿勢として、空き家DIY物件の取り組みだけでなく、地方創生や地域活性という点で、大きな学びと気づきがありました。代表の殿塚さんの、地域にある人や不動産などの資産を活かした事業展開は、持続可能な社会のあり方としても参考になるのではないでしょうか。
空き家に課題を抱える自治体ご担当者様や家主の皆様、DIY賃貸での取り組みを相談されたい方、場の運営に演劇的手法を取り入れてみたい方など、ぜひ一度相談されてみてはいかがでしょうか。
取材日:2024年12月20日